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「有難き日々を淡々と——あえて感情は動かさない」(千葉豊さん)

千葉 豊さん/Mr.Yutaka Chiba
(専攻楽器ライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学ボン)

[ 2025.10.10 ]

音楽学/musicology

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の千葉豊です。

留学開始後、私が過ごしてきたこの半年間は、華やかなことなどなく、誰かに大きく賞賛されることもない、淡々とした毎日の繰り返しである。

他の音楽家の奨学生の方々のように、照明の当たる舞台に立つことが基本的にない研究者にとって、それは当たり前の日々である。

 

<ボン大学音楽学博士課程コロキウムでのプレゼン>

 

ただ、そんな地味な暮らしこそが、私が何より望んでいる有難き日々であり、ほとんどの研究者が何かを果たす上で不可欠な、かけがえのない日々でもあると思う。

兎にも角にも、今私がやらねばならないことは博士論文を書き続けることであり、そのために可能な限り多くの文献を読み、音源を聴くことである。

そして、この作業を高い精度でこなすための最も簡単かつ最も重要な条件が、「一人である」という、その状態。

それは、孤独に心が沈んでいく危険と隣り合わせでもあるが、時に惨めな異国でのそんな時間は、留学というものの醍醐味であるとともに、価値ある博論の完成のための必要条件であるはずだと信じるしかない。

とはいえ、ボン大学でのゼミも指導教官とのミーティングも、毎回私の心を揺さぶってくるある種の戦いの時間である。

私にとってその時間は、言わば自己の存在証明の場だからだ。自身の能力不足や未熟さゆえに、大抵の場合は打ちのめされる。

が、それが故に、自分の思考と論理が相手に伝わった時の達成感も一入だ。

 

 

<散歩道のベートーヴェン>

 

この経験は、これまで日本で数えきれないほど味わってきたとはいえ、異国にて同じように経験を重ねていく苦しさも喜びも、言葉を唯一最大の仕事道具とする研究者にとって至上の学びの一つだと言えよう。
音楽家が自らの「音」を磨くように、私もまた自らの「言葉」を磨かねばならない。

そのためにも、「嘆くよりも行動しろ Machen statt Meckern」の精神で、定期的に灰色に染まるこのドイツでの日々を飄々と過ごしていく。