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ヴィーンの一作曲家としてのベートーヴェン探究(丸山瑶子さん)

丸山 瑶子さん/Ms.Yoko Maruyama
(専攻楽器音楽学/musicology)

[ 2015.09.15 ]

学校名:ヴィーン大学

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の丸山瑶子です。
私は現在、ベートーヴェンの創作活動と同時代の音楽、社会との関連を明らかにするためヴィーン大学に留学しています。

モデナ調査 世界遺産ロマネスクの大聖堂前広場にて

<モデナ調査 世界遺産ロマネスクの大聖堂前広場にて>

 

博士論文では弦楽四重奏に焦点を当て、当時のオリジナル資料を基に分析、考察を行うので、研究のためには留学が必須でした。

そのため奨学金によるご支援には心より感謝しております。

 

研究は史料の整理、検証、分析、考察と黙々とした単独作業が主で、誰とも会わない日も珍しくありません。

会話がないことは語学力向上にも弊害でした。これは精神的に辛く、体調にも影響するほどでした。

そんな毎日ですから、たまに巡り合う刺激的な演奏会や友人との集まりなどは、それらが研究に関連していても、大きな解放感を与えてくれます。

 

そうした精神面の「治癒」の中でも特に貴重だったのは、ベートーヴェンと同時代の作曲家の作品を追って各地へ盛んに赴いたことでした。

以前は遠方への調査が経済的に難しかったため、これは私の研究活動にとって大きな変化であり喜びでした。

 

中でも実りが多かったのは初夏のフィレンツェ、モデナ現存の筆写譜調査です。調査対象は基本情報すら僅かしか知られていない作品でしたため、閲覧資料の選択や調査期間の設定など、事前準備に難儀しました。

現地で紐解いた楽譜は予想外の内容を呈しており、調べるほどにわくわくしてきます。また対象は偶然にも大学の友人の研究と関連するもので、議論にも華が咲き、研究の面白さを改めて感じました。

また人の御厚意の有難さが身に染みる体験でもありました。街の案内や居候をお許し下さった日本の大学の先輩方、臨時に閲覧時間を延長して下さった図書館員さん…御恩に報いるよう、調査結果を形にしたいと思います。

 

学と演奏が協力した演奏会シリーズResound Beethoven 指揮者のHaselböck氏と

<演奏会シリーズResound Beethoven 指揮者のHaselböck氏と>

この調査が示すように、音楽の世界は無尽蔵で、誰にでも未知の作品に触れる機会があります。

そこで独りで考えていたらその作品を理解する糸口は見つからない、むしろ自分だけで解決できる、というのは奢りかもしれません。

しかし周りと意見交換をする、礼節を尽くしてその作品の近くにいる方に尋ねてみる、そうすれば曲の奥へ入っていける、一連の調査はそれを教えてくれました。

しかも音楽は世界言語です。言語が十分に分からずとも楽譜があれば議論は進みます。

この経験から私がこれから音楽を学ぶ方にもお勧めしたいのは、新しいものと触れることに尻込みせず、ぶつかっていくことです。そしてその際、丁寧な気持ちを忘れないこと、誠意は相手に伝わると思います。
今後の目標は第一に、今秋に控えた欧州の学会における個人発表を乗り切ることです。

ここでは同時代の作曲家をベートーヴェンが手本にした可能性を初めて国際学会で発表します。これをバネに今後も「孤高の天才」ではなく「18-19世紀の一作曲家」としてのベートーヴェンの一面を解明していきたいと思います。
並んで現代譜が未出版のベートーヴェンと同時代の作品も、私が収集、作成した楽譜を元に復活上演できたら、と切に願っています。

学問は学界だけで終わったら無意味だと思いますので、まずは演奏家の方に現代ではほぼ無名となった作曲家の作品の面白さを伝え、更には演奏家の方と協力して聴衆にもそうした作品を紹介し、興味を深めてもらいたいと思っています。

ベートーヴェン作品は十分に有名です。しかしどんな音楽を聴いていたら、そうした作品が生まれることになったのでしょうか。

この点を紐解き、新しい目(耳)で作品に触れることに貢献できるよう、これからも研究を続けていきたいと思っています。

 

ベートーヴェン晩年の滞在地Gnexendorfを訪ねて

<ベートーヴェン晩年の滞在地Gnexendorfを訪ねて>

 

 


日本では出来ない調査がたくさんあるようですね!ぜひこれからも研究に邁進してください。