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初めてのウィーン(関 朋岳さん)9/28

関 朋岳さん/Mr. Tomotaka Seki
(専攻楽器ヴァイオリン/violin)

[ 2022.09.30 ]

東京音楽大学 アーティストディプロマ

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の 関 朋岳 です。

まず始めに、奨学生として日々応援してくださっているローム ミュージック ファンデーション、並びに関係者の皆様には心より感謝申し上げます。

8月に行われた認定式を終えて、より一層身が引き締まる思いです。

 

さて、早速9月はコンクールへ参加するため人生で初めてウィーンに行って参りました。

コンクールは歴史あるフリッツ・クライスラー国際音楽コンクールで、ファイナルラウンドでは楽友協会で演奏できる事で有名です。

今回予備予選の参加者は約230名と、バイオリンの国際コンクールにしては激戦で、私はファイナルには進む事ができなかったものの予備予選と予選を通過し、セミファイナリストの18人に選んでいただきました。

 

今回コンクールに参加した経験のみならず、人生で初めて音楽の都を訪問した事は、クラシック音楽家である私の人生においてかけがえのないものになった事は言うまでもありません。

これまでいくつかの国々を訪問していますが、10日間ほど滞在して感じたウィーンの特徴は、多国籍文化であり差別が少なく、人としてもカルチャーとしても上品で、また優しい人達が多いことです。

そして全ての人にクラシック音楽が当たり前のように存在している文化は、とても居心地の良いものでした。

今回の滞在で、他のロームミュージックフレンズの方々に会う機会もありましたが、皆さんとても優しく素敵な方達でした。(次のスカラシップコンサートで一緒に演奏する約束をしました!)

コンクールの関係者も、生活で関わった人達もとても親切なのに謙虚な方ばかりです。

国の雰囲気というのは、現地人のみならず全ての人に大きく影響を与えるなと感じました。

 

 

余談ですが、私が今回滞在したアパートは、ケッテンブリュッケンガッセという駅にある、とても良い立地の建物でした。

日本で想像していただくと、銀座の隣の駅なのに、改札を出て徒歩20秒にある素敵な見た目で敷地は広く、でもとても静かなアパートといった感じです。

他の階の住人ともコミュニケーションを取りましたが皆さん親切な方達で嬉しかったですし、近所のスーパーで買い物をして自炊したり、家事もしながらウィーンの生活を大いに満喫しました。

家の前の大通りは毎週土曜日にマーケットが開かれることで有名です。

 

 

 

コンクールの話に戻りますが、今回参加する上で最も重要だった点は、コンクール名がクライスラーという事です。

どのレパートリーも練習は必要ですが、クライスラーの作品には特に力を入れました。

クライスラーの作品を演奏するとはどういう事なのかをまず考えましたが、結論としてはクライスラーのスタイルを考える=ウィーンの伝統を感じるということでした。

それはつまりウィーン特有の音楽の伸び縮み、軽やかさと気品さを兼ね備えながらも美音であり、それを踏まえて表現が豊かであるという事です。

そのために私が練習でまず実践した事は、徹底的にインテンポで弾くという事です。

とても当たり前のように聞こえますが、20年もバイオリンを続けていると見失いがちになるものですし、むしろセンスを必要とするので難しいです。

そして音楽の全体図を理解した上で、先程述べたウィーン音楽ならではの伸び縮みを意識し、軽やかさを忘れないようにしながら感情を込めるという順番の作業です。

 

レパートリーの中にはクライスラーの愛の悲しみという曲もありました。

この曲は技術的には簡単ですが演奏はとても難しく、それは何故かというと「悲しみ」と言いながら終始明るい音楽だからです。

私のたかだか20年ほどの人生経験では、この曲をうまく演奏で語るにはあまりにも心と知識が足りないのですが、その分想像力を働かせる努力をしました。

それからクライスラーの本を読みました。

彼の第一次世界大戦(レンベルクの戦い)での小隊長としての経験が書かれた本です。

クライスラーが当時から最高の音楽家であったことなんて読んでいても全く知る由のない、現代に生きる私にはとても想像のつかない本当に戦争だけの内容でした。

その想像を絶する経験が彼の音楽に結びついているのかは私にはわかりませんが、この経験を自分なりにイメージする事は愛の悲しみなど演奏する上で意味があったと思います。

 

 

最後になりますが、今回私が体験したウィーンの文化に触れるということ、そしてクライスラーの音楽について考え取り組む事、これらは総じて伝統に触れ伝統を尊重するという事だったと思います。

音楽に自分のスタイルが反映される事は私は必要不可欠だと昔から考えていますが、その前に曲や国の文化やスタイルを尊重し、その上で自分なりの演奏ができるよう取り組んだこの経験はとても貴重でした。

この取り組み方をこれからも忘れず、今回のコンクールで足りなかったものはさらに補えるよう精進します。

音楽は継承され尊重されるものだという事を再認識できた良い旅になりました。