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1 年間を振り返って(鷹栖 美恵子さん)7/4

鷹栖 美恵子さん/Ms. Mieko Takasu
(専攻楽器オーボエ/Oboe)

[ 2023.07.7 ]

ハンブルク音楽院

ロームミュージックファンデーション奨学生の鷹栖美恵子です。
いつも多大なるご支援をどうもありがとうございます。

昨年10月から始まった留学生活も、残すところわずかとなりました。

 

<ハンブルクエルプフィルハーモニー>

 

 

オーケストラ奏者としてのキャリアも10年を超え、日々押し寄せる数々の演奏会と自分なりに精一杯向き合う中で、だんだんと自分の価値観が凝り固まっていくことに気づきました。

「もう一度ゆっくり大きな視野でオーボエについて学びたい、色々な演奏会や奏者の話を聞いて自分の器を広げたい、このまま自分自身の狭い価値観の中で生きていたら、この先演奏できなくなってしまうのではないか」という気持ちが年々強くなり、ロームミュージックファンデーション様からご支援を賜ることができたことをきっかけに、今回の留学が叶いました。

 

留学中は日々、今何をするべきなのか、何を聴くべきなのか、誰に会うべきなのか、毎日自問自答をして、皆様に与えていただいたこの時間を最大限に使おうといつも考えながら生活していました。

ですが、何をするにもまず言葉の壁が立ちはだかり、コミュニケーションの問題が常に付きまといます。

伝えたいことが伝えられないということがとても苦しく、情けなさと申し訳なさでいっぱいになります。

 

ドイツ北部に位置するここハンブルクはとても寒く、7月の現在でも、朝晩は冷たい風が吹きつける日もあり、体調も度々崩しました。

何もかも思ったようにいかず、心と体がヘトヘトに疲れてしまったことは少なくありませんでした。

それでも、そんな波を一つ一つ乗り越えていく度に、心の持ち方、対処の仕方を覚え、自分がバージョンアップしている実感があります。

 

どんなに大変なことも、今振り返ると、意味のあることだったと実感しています。

もちろん、周りの方々や日本の方々の優しさに支えられていたことは言うまでもありません。

 

<レッスン風景、Thomas Rohde先生と>

 

 

留学生活で最も大事な目標にしていたのが、「たくさんの演奏会に行く!」ということでした。

ドイツ国内や、パリ、アムステルダム、ブリュッセルなどのドイツ以外の国にも行くことができ、オーケストラや室内楽、オペラの演奏会をたくさん聴きました。

 

とても良かったことは、さまざまなオーボエ奏者の演奏に出会えたことです。

音色もアプローチの仕方もそれぞれの個性が、それぞれの違う色で光っていました。

自分の個性を愛し(独りよがりでなく)、誇りを持っていて、その姿勢が聞く人を惹きつけるのだと実感しました。

 

<バッハのお墓、ライプツィヒ/トーマス教会>

 

 

留学生活全体を通して、本当にさまざまな価値観に触れることが出来ました。

それは演奏面だけではなく、平和、環境、政治、お金、家族、働き方などなど、様々なことに関してです。

実際に多様な価値観の中に自分の身を置くと、否応なしに自分の凝り固まった考え方をガバッと開けられた感じがしますし、それが本当によかったと、今振り返ると感じます。

 

素晴らしい首席奏者というのは、自分の演奏に迷いがありません。

しかし、自分の音楽を主張しながらも指揮者の意図を汲み、柔軟で、周りの奏者やオーケストラ全体を包み込む懐の深さがあります。

わたしにとって果てしない道のりですが、この道を楽しく迷わず進んでいくためのたくさんの手段を、この留学で手にすることが出来たのではないかと思います。

 

 

秋からまた、都響やその他様々な場所で演奏させていただきますが、大きく豊かな奏者を目指して、一つ一つの演奏会に向き合っていきたいと思います。
こちらで支えてくださった方々、日本の家族、友達、お知り合いの皆様、温かく送り出してくださった愛する都響の皆様、そして、いつも細やかにご支援くださるロームミュージックファンデーションの皆様に、心から感謝いたします。